「新ハムレット」を観て、自分のモラトリアムの終焉を思い出す

ネタバレに入る前に、ワンクッションとして無関係で当たり障りのない話を。

2022年6月13日に「オールドファッションカップケーキ」の配信が始まったので、2023年6月13日は木村達成さんを知って1年の日でした。
BLの実写にさほど興味がなく、なんとなく観た1話。
その先にこんな楽しい時間が広がってるなんて思いも寄らなかった。
oldfccの好きなところを書きだすとキリがないんだけど、すごいなぁと思ったうちのひとつは回想シーンの就活生外川。映画やテレビの回想シーンってとりあえず見た目を若くしてみました的な雑さが目立って違和感があったり、中には失笑するほどおかしいこともあったり、回想シーンを敢えて作らなくてもよかったんじゃ…と思うことがある。でも、oldfccの回想シーンは髪型やスーツの着こなしによるところももちろんあるけれど、視線の動きや表情が29歳の外川とは違いながらもこの先に社会人として豊かな経験を重ね、野末さんへの想いを深めた29歳の外川がいるという連続性をあの短いシーンで感じさせてくれるのがすごいなぁと思いました。


ワンクッションはここまでで、ここからはネタバレもあるし、思ったこと書いてます。

観劇経験がそれほどないから、妙なこと言ってるかもしれないけど。
台詞を発しているときに23歳の青年に見えるのは当然として、人の話を聴いているときに浮かぶ照れ、怒り、寂しさ、憤り、優しさ、愛しさといった表情を作る顔の筋肉の配置が29歳じゃなくて23歳って感じがする。
うん。

何言ってんだろうって感じだけど。

「新ハムレット」を読んだときに、ハムレットの台詞は達成さんがインタビューなどで発言していることと近いような気がして違和感がなさそうだと思いました。
でも、実際に観てみるとそういったパーソナルな部分が透けて見えることはなく、最初から最後まで23歳の青臭いハムレットとしてそこにいて、体の底から湧いてくることばを発して、周囲のことばを全身で受け止めていると感じました。
原作だと難解な部分も、テンション、表情、姿勢、目線、そういった非言語の要素が加わることでするすると理解できました。

ハムレットが語ることばを追うと矛盾を感じる部分があるけれど、彼はことばよりも表情が雄弁。
ホレーショに母や叔父をどう思っているか語るシーンはあの表情を見るときっと素直な気持ちから出たことばであろうと思えるし、幼ささえ感じさせる可愛らしさ。この表情と最後の「僕の疑惑は、僕が死ぬまで持ちつづける。」で見せる表情との対比が私は強烈に印象に残っていて、彼がこの素直で可愛らしい表情で叔父や母を語ることはもうないのだろうと思うと胸がぎゅうっと苦しくなります。
そして、あのプツンと途切れるような幕切れがカタルシスを連れてきてはくれなくて、そこに意識を釘で打ち付けて逃れさせないような重さが好きです。

少し自分語りになるけど。
ハムレットが短刀を取り出すシーンでふと思い出したんだけど、私も学生時代が終わりに近づく頃、家族との不和がきっかけで、刃物で自殺未遂、正確には"自殺未遂の未遂"を起こしたことがあったな…と(それから数日後に別の手段で本当に自殺未遂を起こしてしまいましたが)。
薬物による自殺未遂が原因で頭から言語がかなりぶっ飛んでしまい、修士論文の提出が間に合わないと教授に相談に行くと「私の息子も君くらいの時期、就職を目の前にした時期に自殺未遂をしたよ。そういうものなんだよ。君をなんとしてでも卒業させるから必ず就職しなさい」と穏やかに言われました。そのときに「あぁ、私のモラトリアムはどう足掻いても終わるんだな……」とやっと覚悟が決まったんですよね。

 

だから、ハムレットの最後の表情はモラトリアムの終焉、いや、決別なのかな。
それが父親の死についての叔父への疑惑だなんて悲しいけれど、何をきっかけとするかはタイミングだし、ハムレットはそれを依拠としただけなんじゃないか……とおそらく相当屈折しているであろう解釈をしました。
あの赤と白が混じったピンクの服はモラトリアムの象徴だとするなら、ハムレットはあの先あれを脱いで何色の服を着るんだろう。他の人のようにグレーの色に「イエ」の誇りをつけるのか、喪の黒に赤を背負うのか。うーん…グレーは着てほしくないかもな。

また自分語りになるけど。
祖母の葬儀に父が恋人をいきなり連れてきて「空気読めよおおおおお!!!!!」となった経験がある私は、状況は全然違うけど、ハムレットが母親に対して抱くもやもやとした感情は若干分かるような気がしてます(笑)。
喪と晴れが混じる状態って結構なストレスなんだなと後々気づくことになるんだけど、これをきっかけに父とは数年間絶縁状態になるほど関係が拗れました。多分、別の機会に引き合わされてたら「あー、はいはい」で終わっていたことなのに、あの場でぱっと簡単にお披露目したかったのは分かるけど、あのタイミングで来る女は絶対無理!と心に高い壁が……。「忌中」とかある意味がよく分かったできごとでした。

自分語りを挟んでしまった…

うー。
ちっとも書きたいこと書けてないけど、これから東京の千秋楽を観に行くので支度をします。