ネタバレあり/ミュージカル「マチルダ」を観て40代独身女が泣く。

ミュージカル「マチルダ」を観に行ったよ!という話をネタバレありで書きたいので、ワンクッションとして関係ない話を少々。

晦日紅白歌合戦ではなく、「サウンド・オブ・ミュージック」を観せられるという家庭で育った反動で「ミュージカル?……絶対無理。音楽劇は大丈夫なんだけど」という人間だったんですが、推しを推したいパワーってそういうの蹴散らしちゃうよね。「四月は君の嘘」を配信で観たら「歌が耳に残って気持ちいい!」と感じてしまい、年末のホリプロのミュージカル・コンサートもとっても楽しかった!!

そんなわけで楽しみに待ってた「マチルダ」を観に行きました。
っていうか、週1マチルダ状態が続いております。

(以降、ネタバレがあるのでご注意ください)

■ちなみに、現時点で観てるのは

2023/3/26 ソワレ 14列目上手側
2023/4/2 マチネ 10列目上手側
2023/4/8 ソワレ 14列目上手側
2023/4/14 マチネ 3階中央最後列
2023/4/14 ソワレ 5列目上手側

子どもキャストはレッドとオレンジとグリーン、
トランチブルは達成さん4回、小野田さん1回。
初回から原作既読で観ました。

■リアリティのあるトランチブル
最初に観たのは達成さんのトランチブルでした。
原作を読んだときに、粗野で品がなく、どちらかといえば無性別に近い人物をイメージしていた私にとって、達成トランチブルはかなりの衝撃でした。

初めて観た日。
あの扮装を持ってしても隠しきれない美しさって一体……というのは置いておいて。
動きのひとつひとつが美しくて、テレビのリモコンを持つ仕草をする手の形や人を指すために伸ばした人差し指の反り加減まですべてが計算し尽くされたよう。
そっか……トランチブルも女性だよね……としみじみしながら休憩時間を過ごしました。

そして、2幕。
体育の時間にお色直し(違う)をして出てきたトランチブルがますます女だった。
あの体型では洋服選びも苦労するだろうに、きっと彼女なりにせいいっぱいかわいらしい格好をしているであろうあの運動着。そして、スカートから服がはみ出していないか気にする仕草。悪魔のようなトランチブルだと頭では分かっているのに、なんかむしろもうこの人愛おしいな……と思い始めるあぶない私。そして、ホーテンシアの吸入薬を取り上げ、香水をつけるような仕草を見せたあたりで軽い目眩が起き、やたらとセクシーな足捌きに悲鳴が漏れそうになる。
そんな彼女がマチルダに「でっかい、デブのいじめっこ!」と言われ、一瞬呆然とした後、傷ついた表情を見せ、その大きな体を隠すようにパーカーのジッパーを上げるところで、私の涙腺は緩み、そして、「マチルダ、てめぇ!」とこみ上げる怒り(え?)。

彼女はハンマー投げのオリンピック選手として名声を得たものの、その後はアクロバットの妹のマネージャーのようなことをし、学校の校長となったと思われます(このあたり、原作と違う点が多いですね)。
オリンピック選手になるくらいなのできっと相当な努力をしたはず。でも、今の彼女は「今どこで何をしているのでしょうか」と言われるほど、表舞台から遠ざかった生活をしている。望んでのことなのか、不本意なのか分からないけれど、独身のままで。彼女は過去の栄光に縋り、自身の努力でどうにもならないことは許せないという価値観を抱えて傍若無人に生きている。
美しく、人気者で、結婚し、妊娠したアクロバットの妹への嫉妬があったと彼女は認めないだろうけれど、なかったとは思えない。
彼女は「でっかい、デブ」と何回言われてきたんだろう。嘲笑もあれば、子どもの悪意ないひとこともあったのではないか。

傍若無人に振る舞いながらも、ずっと見開いた目とヒステリックな声に彼女の怯えを感じる。彼女は病んでいるのだ。彼女に精神的なケアを!!

………いや、これ、物語だったわ。


原作を読んだときには忌々しくて大嫌いでぼこぼこにしてやりたいほどだったトランチブルなのに。
達成トランチブルがリアリティを滲ませてくるから………
彼女と酒を飲みながら、彼女の人生を彼女のことばで聞いてみたい。なんてことをしんみりと考えながら、その日はおうちへ帰りました。

しんみりするんだけど、時々冷静に思い返すと「いや、トランチブル、ギチギチとかないわ……」とちゃんと思えるから私はまだ一応正常なところにいます、一応!

中の人の顔がきれいだとか、脚がきれいだとか、それによって男性が演じているのに女性を感じさせるというのはもちろんあると思いますが、トランチブルを演じるにあたってはそれって武器になり得るかと言うと微妙じゃないかと実際に観るまでは思っていました。
実際に観たら、そういった要素があるからこそ人物造形を掘り下げる方向に行って女性としてのリアリティがあるトランチブルになったのかな……と思ったりします。

■他のトランチブルは?
これだけトランチブルに変に肩入れしてしまうと、じゃあ、他のキャストのトランチブルはどうなの?とやっぱり思ってしまうわけで。
小野田トランチブルの回、観ました。

全然違う。

原作を読んでイメージしていたトランチブルはまさに小野田さんのトランチブル。
ふてぶてしくて忌々しくて、女性とか男性とかそういう枠組みでは到底括ることができそうもない「トランチブル」という寓話的な生き物がいる感じ。

その回はパワフルなマチルダ(三上野乃花さん)だったこともあって、ふたりに圧倒されつつ結構笑いました。

吸入薬は確か鼻に突っ込む仕草だったよね(笑)。

■良し悪しということではなく
役者さんが何を考えて演じているのかは分からないし、私という個人が観劇という体験の中で何を得たかということでしかないのですが、トランチブルに関して言えば、「好きに楽しく生きている」と言っている私がトランチブルの姿を通して、実は心の底に沈めている敵意や悪意、嫉妬、苛立ちといったものに気づかされて、あの時間だけはほんのちょっとそれを開放できたという意味では、達成トランチブルがとても好きです。
(マチルダ目線ではまた全く別のことを感じたので、それも別で書きたい)

歌唱に関しては小野田さんの歌、すごかった…
ただ歌うんじゃなくて、いろんな感情を歌声の中で表現できるんだなぁ…って。
声がふわっと膨らむ感じが聴いていて心地よかったです。

歌といえば、Zekeが出てくるところ。
達成トランチブルは妙な笑みを浮かべて品を作るので「トランチブルがまじでおかしくなった。病院連れていかなきゃ」とぎょっとするほど。
小野田トランチブルは割と普通に歌うし(歌ってる内容は狂ってるけど)、歌がうますぎて普通に聴き入ってしまう。けれど、子どものツッコミで「そうだよ、へんだよ!」と我に返って笑える(笑)。


今まで複数キャストの演劇を観ることがなかったので(ミュージカルを生で観るのはほぼ初めて)、こんなふうに比較できる楽しみがあるのもいいなと思いました。
けど、チケットを買うときにすごく緊張するよね。5回くらい指差し確認するもん(新卒のときに上司から言われたことが身についてる)。

■せっかくなので
3階中央最後列で一度観たんですが、照明の面白さやダンスのフォーメーションの美しさは前方席では分かりづらいので、上から観るのもいいですね。
今後もあと何回か行きますが、3階最後列が楽しかったので、バルコニー席にした回もあります。楽しみです。