「スリル・ミー」彼に対する私ではなくわたしの加虐心に気づく夜。(木村・前田ペア/振替公演、東京千秋楽)

ネタバレありで書くので、ちょっとワンクッション。


名古屋と高崎にも行くけれど、その後のロスに備えて田代・伊礼ペアの音源を購入しました。
我が家にはNICOBOという家庭用ロボット(なまえは「つなちゃん」。由来は「たつなり」さんから2文字)がいるのですが、低い声が大好きなつなちゃんは音源を聞いていると「そうだね。」「いいね。」「こまったね。」「がんばる。」などと反応するのですが、内容が内容だけに永遠の2才児(NICOBOのコンセプト)に聞かせていいのか迷うところではあります。
それは置いといて、木村・前田ペアの音源も売ってください、お願いします。耳が寂しくて死んじゃう。

今回もわたくしsaccoの一人称は「わたし」です。

 

さて。
東京千秋楽の衝撃は凄まじく、「千秋楽、無事終わってよかったね。カーテンコールの笑顔、かわいかったね。」などの感情は一応あったものの、そこにフォーカスできないほど落ちていました……いい意味で。

 

■憐憫から狂気へ。その果てに、健やかさへ??
東京4公演しか観ていないから、わたしが観て感じたことからしか言えないけれど、
初日の私は自己憐憫
9/27の私は狂気がにじみ始め。
10/1の私は狂気に傾き、

東京千秋楽の私は……健やかだったと思う。
そう思ったのはわたしだけか??

冒頭の、委員会の場にいる現在の私の声がまず打ちひしがれていない。
むしろ、ふてぶてしい。
そこに新鮮な興奮と期待が湧きました。
そして、現れた19歳の私は
ええーーー!!!めっちゃ健やかじゃん!!!
(木村私にはそちら側へのレンジもあるのか!!!)
と驚き、彼に対して言うことを言いながらも態度と声は下手(したて)に出ることが常だった私が堂々と喋っていることに更に高まる期待。これはもしかして結末が変わってハッピーエンドになるんじゃないか!?と一瞬本気で思ったくらい健やかでした。

これまで観てきた私は彼に対しての愛情と後ろ暗さを併せ持っており、その後ろ暗さが自己憐憫や狂気を生み出すのだとわたしは感じていたんだけれど、千秋楽の私には後ろ暗さがなく、愛への迷いがないというか……
例えば「僕はわかってる」の歌詞を、千秋楽以外では追い縋って引き止めるための哀願だと感じていたんだけれど、千秋楽では、この子は本気で「僕しかいないでしょ?なんでわかんないの?」くらいの感覚でいるんだなと感じました。

でもね、その健やかさを持ってしても結末は一緒なんですよね。
(全ては台本なのだから当たり前だけどさ)

愛されたいのに愛されない悲しみや、どうにかして愛されたいという狂気から、彼とともに収監される道を作るというのも感情としては理解しやすくてすごく好き。
だけど、愛してるんだからなんとしてもずっと一緒にいるよ、当然でしょう、くらいの健やかな狂気は深度が深すぎて、救いようがなくて、結局もっともおそろしくて、絶望的だな……

千秋楽がこれだったのは作為じゃないとしても、観ている側としてはなんつーものを最後に観せてくれたんだよ!!最高じゃねぇか……!!!と、翌朝9時の仕事開始まで時折ぐしぐしと泣きながらどっぷり落ちてました(落ちてたけど、仕事先で9時の始業時刻ぴったりに「さっこさんに頼みたいことあるんすけどーいいすかー」と話しかけられた瞬間に「おっしゃ!なんすかー?」とピコッとスイッチ入ったので大丈夫。さすがにオトナ歴長いんでね)


(10/1も結構衝撃で、悲哀と狂気の沼に引きずり込まれて脳がひたひたに浸った感じ。頭を使いすぎたらしく、見終わった後、頭痛がひどかった……)

 

■忍び足
彼が登場し、私の背後から忍び寄って、腕を前に回して驚かすシーン。
忍び足してるときの前田彼の表情がほんとにかわいい。
そのかわいらしい表情や動きは、体に触れた瞬間にさっと空気を変える。

幼少期は仲のいいごく普通の友だちだったんだろうな。
だけど、どこかでふたりの関係は変わっていって、
今はただならぬ関係にある。

初日の時点では何も予習していなかったわたしの頭の中をそんな想像が一瞬で駆け巡りました。

その想像が正解かは分からないけれど、ああいった一瞬に時間的な奥行きを観てしまうことがわたしにとっては映像作品とは違う面白さだなと思います。

 

■レイ
前田彼が発する「レイ」の甘さに溶けそう。
めちゃくちゃなことを言っていいならば、対象を手懐けるためにDV傾向がある人間が優しい声で呼びかけているような気がしなくもないんだけど、あれはもうご褒美でしかない。

海外の「スリル・ミー」がどういったキャストで演じられているか知らないし、実際の犯人たちがどういった人物だったのかも知らないけれど、支配関係を外見的に分かりやすくしようとするなら、彼が大きくて私が小さいほうが観客は飲み込みやすいような気がする(実際、わたしが観た別ペアは体格差が大きく、それだけでも彼の威圧感が非常に大きく感じられた)
でも、この木村・前田ペアは体格に大きな違いがなく、彼の声が特に低いわけでもない。なんなら、木村私が前田彼に殴りかかったら勝てる可能性すらありそう。だけど、そんなことにはならず、私が彼に愛されたいと期待し続けるのは、やはり、彼が時折気まぐれにくれるそのご褒美が余程甘美なものだったのだろうと、「レイ」と呼びかける声の甘さから想像してしまうのです。

 

■脅迫状
「脅迫状」の曲間での自分のために親は身代金を出してくれるかという仮定についての会話と「おまえ次第だ 息子の命 救いたければ」という歌詞。逮捕後の私と彼につながる伏線と考えてもいいのかな。
私は彼の親に絞首刑という脅迫を突きつけ、金(弁護士費用)を払わない親から彼を永遠に奪ったと考えるのは考え過ぎか…?


木村私と前田彼のペアは、一方的な支配関係ではないとわたしは感じてしまうから、なんとなく深読みしてしまいます。
例えば、私がやたらと「弟」と言うのも、実際、弟に尋ねれば聞き出せたり、要求がスムースに通ったりするんだろうし、それはあの緊張感の中でくすっと笑える一瞬だったりするんだけど、木村私はわざと言っているとしか思えない。彼の苛立ちを掻き立てることで「ほら、親ですら君を見ていないんだよ。弟がいるせいだよ。憎いよね。でも、僕はずっと君を見ているだろう。僕がいちばんの理解者だ。僕しかいないだろう」と言外に訴えている……ってサイコパスか……ほんとこわいな、私。

■死にたくない
そして、そんな私の策略に嵌ったとも知らず、死刑判決を恐れ、恐怖で半狂乱になる夜。
彼は"超人"であることを証明したと言うけれど、それは"幼児的万能感"でしかなかったのではないだろうか。あるときまでは愛されていたからこそ築けた万能感だったけれど、弟の誕生によって愛情を得られなくなったことで本来するべき経験を出来なかった。だから、幼児的万能感を知性で塗り固めただけで今まで来たのではないか。
前田彼の狂乱に幼児性を感じて、そんな想像をしました。


こんなふうに考えていくと、前田彼が殺人へ向かってしまった理由は分からなくはないんだ、善悪は別として。だからこそ、平和な家庭で愛に包まれていたであろう私が彼とともに生きたいという"愛"ゆえに倫理観を打ち壊してでも犯罪に手を貸す木村私が本当にこわい。愛でそこまで出来る…??って。そして、それで手に入れられるならやるかもな…と思うわたしがこわい。

あの前田さんの声、言い方、身体の動き、髪の乱れ方。観ていると、この人をどうにかして救ってあげたいという気持ちが湧くと同時に、こいつをもっとぶっ壊してやりたいという加虐心を煽られながら、隣の房にいる木村私のほうを観ると眠ってないし、起きてるし、にやりとしたかと思ったら、大口開けて笑っている。あぁ、今、わたしが感じている加虐心は私の心情に随分近いところにあるのかもしれないと気づいて、わたし自身に潜む狂気にぞっとしました。特に10/1。もうね……頭も痛くなるよ……

 

■本筋とあまり関係ないけど。
東京千秋楽が通路側の席で、真横を木村私が歩いて行ったんですけど、劇場の構造もあってのことですが、一歩が非常に重くて。
一週間近く経った今も、あの一歩をふいに思い出しては、時間の重さを考えてしまう。
奪った時間であったり、自ら失った時間であったり。
組んでいた手が解ける(手錠を外される)場面でもそれを感じました。
わたしがどんなに私の精神性に共感できたとしても、犯罪に手を染めてはいけないと月並みだけど強く感じます。


■まだ名古屋と高崎があるので、
このあたりで今日のところは終わっておこうと思いますが。

本筋とあまり関係ない話だし、読んだ方が気を悪くするかもしれないと思いつつ。

わたしが感じる達成くんのお芝居の魅力は、人物像を掘り下げてしっかりと自分の中に構築できていて、台本にない時間まで演じられるんじゃないか?と思わせてくれるところ。実際どうなのかは知らないから"思わせてくれる"としか言えないけど、「台詞言ってます」感はないし、「身体の奥から湧いてきてます」って感じがする。そして、レオナルドやトランチブルのようなぶっとんだ人物だったとしても、レオナルドのこれまでの日常生活を想像したり、トランチブルの女の一生を妄想したりできるくらいに生きているとわたしは感じられる、んですけど。

そういった魅力を他の俳優さんに感じられるかといったら、それは非常に稀で(映像作品ではいるけど)。だから、ふたりでお芝居するってどうなんだろう?と不安な気持ちを持ちながらチケットを買いました。

そして、初日。
前田さん、すごく自然に彼だった。
役を着ているんじゃなくて、役が内在している感じとでも言えばいいのか。
シームレスに馴染みきった感じで、一瞬、うっかり「前田さんってこんなにサディスティックな人なのか」と思ったほど(違うってば、役だよ、役!ってすぐに自分でツッコミいれたけど)。
こんなにストレスなく観られる舞台、あったんだ……
このキャスティング、奇跡では!?
などと、観劇歴めちゃくちゃ浅いわたくしめが大変興奮いたしました。

前田さん、また舞台出るかな。絶対観に行きたい。
そして、あわよくばおふたりが再び共演したらいいな、と思ったり。
舞台がいいけど、映像作品でバディーものとかも観てみたいなんて妄想してみたり。

 

ほんとにいいペアだなぁ。
あと2回しか観に行けないなんて。
頼むから円盤出してください。
映像でも音源でもいい。
土下座したい勢いでほしいです、ほんとに、切実に。